DACチップはESSか旭化成か?その2 大須本店 越濱 靖人 |
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前回に引き続きDACチップの話を書こうと思います。その1ではESS社の事をメインで書きました。今回は旭化成エレクロトニクス(AKM)の歴史と私なりの思いを中心に書いていきます。DACチップ単体の音は評価できない為、当時搭載されていた機材の印象で書いています。 旭化成の音質は一言で言うと「とにかく滑らか」でしょう。一聴して安らぎを感じる落ち着いた佇まい、丁寧で破綻のない滑らかな質感、弱音部の繊細なタッチと余韻。質感はややウェットで日本の丁寧で端正な美意識を感じさせるチップだと思います。逆にESSは情熱やダイナミズム、躍動感が特徴で質感はドライです。 |
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AK4397(2007年) 旭化成初の32bit処理になったDACチップです。ESOTERIC D-05 D/Aコンバーターに世界初搭載されました。当時とても解像度の高いクリアな音質だと思った印象があります。ただ上位モデルから考えると線が細く非常に硬い印象でした。この音質は製品のグレードが中堅モデルだったから、かも知れません。 |
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AK4399(2008年) 翌年発表したチップです。更なるS/N比の向上や前作になかったフィルターの搭載などいくつか追加されています。ESOTERIC D-02 D/AコンバーターやK-01/03/05 CDプレーヤーに採用されていました。私の記憶ではこの時から音がマイルドに聞こえる様になりました。立ち上がりが早く、キメが細やかで破綻の無い音という印象です。細い印象が無く厚みが伴った感じに聞こえました。 |
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AK4495S(2012年) エソテリックと共同開発したとされるDACチップ。ESOTERIC Grandioso D1に初採用されました。全8個のチップを使用、チャンネルあたり16回路を組み合わせた壮大なDACです。その音はローエンド〜ハイエンドまで全く隙の無い緻密さで驚きました。ESOTERICはその他にもK-01X/K-03Xでも使用しています。DSD5.6MHz/PCM768KHzまで対応したチップとなります。 |
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AK4490(2014年) 遂にDSD11.2MHz/PCM384KHz対応したチップです。旭化成もこのチップから「ベルベットサウンド」という第3世代チップに位置付け、新しい時代の幕開けとなりました。シルクの様に滑らかな質感、とても穏やかな佇まい、以前に増して厚みが感じられる様になりました。デジタルオーディオプレーヤーの名機Astell&Kern AK380に搭載され今もファンの多いモデルです。TEAC UD-503やESOTERIC K-05X/K-07Xにも搭載されています。後に登場するAK4497やAK4499と比べ解像度は劣るものの安定した色艶を感じさせる未だファンが多いチップです。 |
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AK4497(2016年) いよいよ旭化成の最高峰AK4497の登場です。前作4490で得た人気を更に高い次元(DSD22.4MHz/PCM768KHz)へ押し上げたプレミアムDACです。私はこのチップが一番完成度が高いと思っています。今まで築いてきた電圧出力を軸とした旭化成サウンドをしっかり継承し、堂々と筋の通ったDACに仕上がっています。音の気配、ピアノのタッチ、美しいボーカル、抜群に安定したサウンドが特徴でしょう。Astell&Kern SP1000、Cayin N8、Lotoo PAW GOLD TOUCHやESOTERIC K-01Xs、N-01、LINN KLIMAX DS/3等に使用されています。 |
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AK4499(2019) 昨年発表された最新のDACチップです。このチップには旭化成の怨念が込められています。2016年にAK4497を発表直後にESS社が更にハイスペックなES9038Proを発表し世間の話題が一気にESSへ流れました。決して旭化成が劣っているわけではないですが数値面で負けてしまい悔しい思いをしました。そこで今回は9038proと対等に戦うべく伝統だった電圧出力を辞め、電流出力に変わりました。音質的にも攻めに転じたチップです。ほぼ無音に近いS/N比の高さ、ダイナミックで強靭な低域の締まりを感じる旭化成に無い個性を発揮しています。 |
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Astell&Kern SP2000-CP(2019年) 世界で初めてAK4499チップを搭載したオーディオ機です。前作SP1000はAK4497を搭載していました。単純にチップの比較は出来ませんがSP2000の方がやや派手になった印象です。歴代の滑らかなベルベットサウンドを継承しつつ更に躍動感や情熱感が加わった音です。ただ全体的に筋肉質なサウンドになり過ぎ「滑らかなのにムキムキ」と言うチグハグな方向になってしまった様にも思えます。個人的にはAK4497の安定した旭化成サウンドをもう少し熟成させ、厚みがあるのに懐が深く広いものであってほしかったというのが正直な印象です。その点ESSのチップは全体的な音の整合性が取れており、狙うべきポイントにズレがないと思います。 |
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旭化成のロードマップです。性能はほぼ限界値に達していると思います。人間が認識できるレベルとされるPCM768KHzに到達していることや1曲あたりのデーター量が半端なく大きすぎることからサンプリングレート競争は終わりを告げようとしてます。現在、色々なオーディオメーカーや個人の方がAK4499チップを使いD/Aコンバーターを作っています。これらがどんな音がするか興味津々です。 |
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ただ今後はDACチップを使うメーカーが少なくなるかも知れません。現在エソテリックやマランツは「ディスクリートDAC」と言うDACチップを使わない手法に転換しています。よりコストのかかる仕組みですが音作りの自由度が高く、メーカー独自の音質で差別化出来るメリットがあります。特に英国CHORD社のDAVEが有名です。どのメーカーとも違う音質で、オンリーワンの商品です。この様にDACチップは新たな局面を迎えようとしています。 現在も発展中のデジタル分野は今後も目が離せません。益々面白くなりそうです。 |