DACチップはESSか旭化成か?その1 大須本店 越濱 靖人 |
|
今回はマニアックなDACチップについての話を書こうと思います。 DACチップとは"Digital to Analog Converter"の略で、簡単に言うと音の心臓部に当たります。CDやパソコンの音楽など01011010...といったデジタルデータをいつも聞いている「音」に変換してくれる物がDACチップとなります。 当然メーカーによって音質が異なります。老舗DACチップメーカーはフィリップス、バーブラウン(現テキサス・インスツルメンツ)、ウォルフソン、アナログ・デヴァイセズ・・・などなどありました。特にバーブラウンは世界中の音響メーカーが使っていたはずです。今でも素晴らしい音質のチップです。 ただこのDACチップの世界に転機が訪れます。2009年にアメリカのESS社が発表したES9018SというDACチップです。このずば抜けた性能と音質に各メーカー驚いたでしょう。これによってDAC時代ががらりと変わった、と私は思います。今までにない音の温度感、情熱感、分解能。シンプルに表現出来ない複雑な味わい。特にこのチップの取り扱いが難しいことから設計者の技量が問われることになり、設計も複雑にヒートアップしたと思われます。ゆえに今までにない、新しい音が生まれたのかもしれません。 |
|
|
|
そんな中、宿敵が現れます。旭化成エレクトロニクス(AKM)のハイエンドDACチップAK4490の登場です。旭化成はESSと違い、きめ細やかで滑らか、非常に歪みが少ない音質で世界の音響メーカーに認めらました。日本のDACチップが一気に世界のメーカーで採用されるきっかけとなったチップです。そして現在、この2大DACメーカーが熱いバトルを繰り広げています。両者とも音のベクトルが違うため、どちらも人気があります。 今回はまず、ESS搭載のD/AコンバーターとDACチップの紹介をしていきたいと思います。 |
|
AIT Labo ES9018S 中古価格128,000円(2018年時) このメーカーは入荷するまで知りませんでした。自作品っぽい作りだなと軽視して鳴らしてみたら、おや?これは今までのデジタルと音が違うなと見直しました。音に血の通った「情熱」を感じたのでした。興味が出て調べてみたらESS社のDACチップが2個使われているとのこと。俄然ESS好きになりました。 |
|
Accuphase DC-37 中古価格418,000円(2019年時) このDACはDELAからUSB-DAC接続した時に驚きました。ふと昭和のPOPSを鳴らしてみたのですが、なんとその当時を思い浮かばせるような情緒的なサウンドで出たのです。後で調べてみたらESSのES9018Sが搭載されていました。最近のDACはいかにもハイファイ・サウンドです!と主張するモノが多いのですが、そんな中で素朴で自然な昭和リアリティを感じるとは思いませんでした。 |
|
ES9018S DACチップ ESS社の爆発的ヒットを生んだDACチップです。2009年に発売され、瞬く間に沢山のメーカーが採用した高性能チップでした。このチップは8個のDACが内蔵されておりマルチチャンネルにも1チップで対応できます。ただ並列処理も出来るため8チャンネルを2チャンネルで使用するメーカーが多かったようです。高級DACは8チャンネル全てを片側に振り、2個使い(デュアルモノ構成)し、ダイナミックレンジと歪み率を追求していました。 |
|
ES9028pro DACチップ 伝説のチップ発売から7年が経ち2016年に発売されたのがES9028proチップになります。純粋に9018Sの後継モデルになり内蔵DACも8個入っています。やはり新しいだけあり前作より解像度が向上、更に音像が際立ち、見える音となりました。ただ、同時発売された上位モデルES9038proの影となってしまい、フラグシップ感は落ちてしまいました。現在1個6000円ほどで販売されています。 |
|
ES9038pro DACチップ 2016年このチップが大きな話題となりました。恐らく2009年の9018S登場と同じくらいのインパクトがあっただろうと思います。世界最高レベルの性能と8個DAC→32個DAC増加という、他が追従出来ないレベルへ押し上げた超ハイスペックDACの登場でした。この発表を受け、メーカーはまたこのチップの虜になりました。2019年現在でも最高スペックを維持し、人気を博しています。ただし、このチップは相当な電力を消費し大掛かりな電流電圧変換回路が必要なため、相当足腰が強くないと使えません。そのため据え置きオーディオを想定した設計となっています。1個あたり10,000円ほどで販売されています。 |
|
Accuphase DC-950 中古価格738,000円(2019年時) 最高級ES9038proを2個使ったアキュフェーズのフラグシップモデル。前作のDC-901はES9018Sを2個採用していました。今回のDC-950は、より音の鮮度が増し、低域の解像度が飛躍的に向上したように感じました。かなりカチッとしている印象です。USB-DAC入力でDSD11.2MHzまでロック出来るようになり、DSDが本格的に聴ける1台となっています。 |
|
OPPO Sonica DAC 中古価格128,000円(2018年時) 圧倒的なコストパフォーマンス!50万円を超えるモデルにしか搭載されていなかったES9038proを、10万円の価格で実現した驚きのモデルでした。発売期間が短くあっという間に販売終了になってしまった為、最近ではプレミアが付いて高値で取引されています。このモデルは1個が搭載され、お値打ちながら鮮度の高さを実感出来ます。LAN接続も可能ですが、USB入力の方が数段音は良いです。DSD11.2MHzまでは音出し確認できています。 |
|
iRiver Astell&Kern KANN CUBE 新品価格180,000円程度(今年の新モデル) なんとポータブルの世界で初めてES9038proをダブルで搭載した意欲作です。半端ない消費電力に耐えるため通常の2倍のバッテリーを搭載しています。本体も相当熱くなるため万人向けではありませんが、私のような情熱派の方にはもってこいの商品かと思います。 本体も500gとポータブルの中では戦車並みに重くデカいですが、ストレートで彫りが深く太いサウンドでは右に出るものはないかもしれません。付帯音も少なく直球勝負で来ますので、ハイレゾ音源の良し悪しがモロに出ます。 ただ私の中では残念ながら9038Proを活かしきった音質には感じられませんでした。やはりこのチップは据え置き型の高級機でしか本領を発揮出来ないのだと思います。圧倒的に強力な電源、I/V変換、アナログアンプなど想像を超える設計でないとこのチップの旨味を引き出すことは出来ないでしょう。 そのくらいにESSのリファレンスチップは使い方が難しいです。 |
|
次回は旭化成の名機AK4490〜最新AK4499EQを含めた音のご紹介をしたいと思います。 |