都内の空気も、凍える様な冷気から少し緩んできた感じのする今日この頃、趣味のロードバイクで荒川や江戸川河川敷を走る辛さが少し軽減された様な気がします。 皆様いかがお過ごしでしょうか。 ハイファイ堂 丸の内店 廣川勝正です。 普段私たちが接しているオーディオ機器は、アナログ時代のものが多いせいか、ぬくもりを感じさせるウッドや飾り気の少ないスチールシャシーの製品が未だに多いと思います。ですが、現代の高価な機器が入荷するたびに、その精緻な造りや特異な形状に驚かされる事があります。いかにも原材料にお金がかかっているんだなぁと感じさせる様な・・・。 そこで今回は、近年のハイエンドオーディオには欠かせなくなりつつあるという素材、アルミとカーボンについて語りたいと思います。 |
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まず、一言でアルミと言っても様々なものがあります。一番代表的なものとして1円玉に代表される1000系アルミニウム(純アルミニウム系)、航空機材料として使用されている超ジュラルミンなどの2000系アルミニウム、その他、8000系まで様々なアルミ合金が存在します。 そこでオーディオのシャシー素材などでも使用されているアルミ素材を紹介したいと思います。上の写真のiPhoneのケースなどにも使用されている素材、6000系アルミニウムがそれです。 |
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6000系の中でも特によく目にするのは6061アルミ、自転車が趣味の方ならご存知、いわゆる「ロクマルアルミ」です。アルミニウム−マグネシウム−ケイ素(Al-Mg-Si)系合金で、強度、耐食性、陽極酸化性に優れた素材です。 写真の自転車フレームのステッカーにHEAT TREATEDという文字が見えますが、これは熱処理をしたという意味で、耐腐食性の向上のためと思われます。 この様に、自転車のフレームなどに使用されている6061アルミ、この後それが使用されているオーディオ機器を幾つか紹介したいと思います。 |
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皆様ご存知のハイエンドオーディオブランド「JEFF ROWLAND」のシャシーが6061アルミです。上の写真はパワーアンプのModel8Ti、右の写真は現行モデルModel625/2のシャシーです。 ジェフローランドの製品造りの一つのキーワードとなっているのが「無音時の静けさ」です。それを実現させるために、まずシャシーからしっかりとしたものを造る、と言う事でこだわった結果、航空機グレードのアルミ塊から正確に削り出して強固なシャシーとしているのです。 その効果は、しっかりと音に表れています。他のアンプでは聴き取れないほどの弱音も、見事に再現できるS/Nの高さの要因ともなっているのです。 |
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次にご紹介するのが1996年創立のハイエンドオーディオブランド「MAGICO LLC」。このブランドのスピーカーのエンクロージャーに6061アルミが採用されています。 上の写真は同社Qシリーズの中核モデルQ3です。一見、何の変哲もないスピーカーですが、投入されているテクノロジーと、それが見事に反映されている音に驚かされます。サイズはW266×H1194×D432mmと少し大きめのトールボーイタイプですが、重量は驚きの113kg。税別定価もペアで650万円という、まさにハイエンドスピーカーです。 ハードアノダイズ仕上げの6061 アルミニウムバッフルとフレーム、真鍮ステーからなる完全密閉型エンクロージャーを採用。Q3では全オーディオ帯域での歪みを引き起こしている共振の除去に対してダンピング素材の様々な厚みなどで対応しています。 その音は、静かなメロディーのところは繊細且つ丁寧に、力強いところは包み込むように迫力があり、リアルそのもの。ふわっとしなやかな表現も見事な素晴らしい実力のスピーカーです。 |
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同じくアルミの筐体を持つオーディオ機器として、上の写真のKRELL LAT-1スピーカーやAYRE MX-Rパワーアンプなどがあります。 その他にも現在では数多くの機器がアルミ製の筐体を身にまとっています。 今やオーディオに欠かせない素材となりつつあるアルミニウム。その原材料の価格が機器の価格を大きく左右するほど、影響力を持ってしまいました。できれば、これ以上高価にならない事を切に祈るばかりです。 |
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さて、ここからは「カーボン」についてお話ししたいと思います。 一般的に私たちが「カーボン」と言っているものは炭素繊維のことです。炭素繊維の特長は、何と言っても軽くて強いこと。比重が1.8前後と鉄の7.8に比べて約1/4、アルミの2.7あるいはガラス繊維の2.5と比べても有意に軽い材料です。その上に強度および弾性率に優れ、引張強度を比重で割った比強度が鉄の約10倍、引張弾性率を比重で割った比弾性率が鉄の約7倍と優れています。これが、炭素繊維が従来の金属材料を置き換える軽量化材料として本命視されている理由です。 現在では、ゴルフシャフトや釣竿、航空機や自動車などのボディ、自転車のフレーム等、多岐にわたって使用されている素材です。 上の写真は、PAN系炭素繊維の性能・品位・生産量において、ナンバー1企業として、世界の炭素繊維産業をリードしている東レのTORAYCAです。 右の写真は早くからフレームにカーボンを採用したアメリカのバイクブランド「TREK」のOCLVカーボンフレームです。ちなみにこのフレームの原材料となるカーボンのグレードは軍需レベルのもので、その素材レベルの輸出に関してはNATO加盟国以外は不可という代物です。 |
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オーディオ機器関連でもカーボン素材は、多岐にわたって使用される様になりました。写真のスピーカーはWILSON BENESCHのA.C.T ONE Loudspeakerです。WILSON BENESCHは、創業当初から、カーボンコンポジットの可能性にこだわり続け、1990年代初頭に、世界に先駆けカーボンコンポジットを使用したトーンアームやスピーカーシステムを発表した英国のオーディオブランドです。カーボンへのこだわりが最も強いブランドと言っても過言では無いと思います。 特に、このスピーカーではエンクロージャーにカーボンを多く使用し、それが音質に大きく貢献しています。特にスリムな筐体とは思えない低域の分解能と量感のバランスは見事の一言。使用されているドライバーの優秀さも相まって、素晴らしい音質を誇るスピーカーに仕上がっていると感じました。 |
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今やカーボン素材を使ったオーディオ製品は、スピーカーユニット、ヘッドシェル、アンプシャシー、トーンアーム、インシュレーターなどのアクセサリー類など数多くラインナップされる時代となりました。固有の共振周波数を持たず、震動減衰能力にも優れた素材でもあるカーボンを使った製品は、今後も増え続けると思います。 オーディオの新たな可能性を広げてくれるアルミニウムやカーボン、さらにまだ見ぬ新素材が、音楽を愛するオーディオファイルの心をつかんで離さない様な、素晴らしい製品を生み出してくれる事を期待しつつ、今回はこれまでとさせて頂きます。 ではまた次回。 |