私のお宝 トーンアーム自作奮戦記 K.K メルマガ読者の皆様今日は。音迷人とは40数年前からオーディオでの腐れ縁です。私もご多聞に漏れず、ラジオ少年でしたのでご高齢のマニアと同じような経過をたどってきたかと思います。日々本業で忙しい中、音楽は安らぎ、活力をくれます。そんな為にオーディオに夢中になることは同等に楽しいことですね。十年ほど前某誌のクリニックに出たときに「世界広しといえども、思い通りに作れる環境にある日本に生まれ感謝」と書きました。今は少し寂しくなりましたが、オーディオファンの裾野を広げたいです。 では音迷人にせっつかれ、急遽まとめてみましたので、皆様のオーディオライフにアーム自作を加えてみては如何でしょうか。まさか発表なんて思っても見ませんでしたので、適した写真など原版保存がありません。見にくい部分がありますがどうぞお許し下さい。 |
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1. 長年使用していたSMEのアームが何となく動きが悪くなり、接点なども黒ずんできました。ピンジャックの出口が貧弱です。 SMEに限った話ではありませんが、一番の欠点はカートリッジのシェルをネジ山の荒い アームにネジ込んでいるでいる部分です。これは接点不良のため、また強度不足のため、悪影響を及ぼしています。デリケートな部分なので力を入れてシェルを取付部分にネジ込むのが怖い気分です。またせっかくのアームもこの部分でガタがあるような気がします。もっとネジ山のこまかな、そしてネジ山部分が長いものに変更すべきです。 2. 精神衛生上も良くないので、買い換えようと思いましたが、品薄なのと高価でした。そこで「いっちょう自作してやろう」と思いました。 |
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3. 最初にすべての部品を自作しようと、実際に仮作成してみました。これは本品完成後壊してしまいましたが、これはこれで満足できるものでした。横軸がスムースに動く部品の自作が大変難しいことが分かり、この部分は前に使っていたSTAXの部品を流用しましたが、ガタが取れず何となく満足できませんでした。スタックスは前後左右の1点支持です。 4. また実際にカートリッジを付けてPLAYしてみてもオフセット角度が何となくずれているような気がしました。 5. そこで別紙のような設計図をキチンとつくり、論理的にオーバーハングが11mmが良いことをカットアンドトライで結論づけました。トラッキングエラーは0.5度以下のはずです。久しぶりに幾何の勉強をしました。 |
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6. 一番材料探しで苦労したのはパイプでした。軽くて硬くて丈夫、導電性がありそれでいてテーパーが付いた材料はなかなかありません。 7. ゴルフをしていて、クラブを何の気無しに眺めていたら、このクラブシャフトが最善じゃないかと気が付きました。特にカーボンシャフトはすべての条件を満たしています。 8. 中古ゴルフ店でシャフトに傷が入っていないスプーンを2,3本買いました。すべて一本千円前後でした。 |
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9. 次に困ったのが、細いリード線です。あまり細いと抵抗値が増えて音に力がなくなります。またあまり太いと、アームの動きが悪くなります。 10. そこで古いライントランスを分解し、推定直径0.05mm髪の毛より細いエナメル線をほぐして取り出し、これもカットアンドトライで3本より線がが良いと結論づけました。シェルから回転部まで太い線で持ってきて、回転部分の寸前でハンダ付けされた3重のエナメル線で最下部まで下ろしています。左右2本づつ、アース部分とで5×3=計15本の線です。このエナメル線はハンダ付けする時にエナメル部分を火であぶると、中の銅線がきれいに現れ、工作上大変助かりました尚カートリッジには直接リード線をハンダ付けしました。なるべく接点を少なくするためです。配線後は筒鳴りを防ぐために、接着剤アラルダイトを流し込みました。 |
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11. 設計で上下回転の部分は、SMEのようにナイフエッジにしようかと思いましたが、針先支持の左右2点支持のほうがより鋭敏だし工作もしやすいと考え、これにしました。それとナイフの材料にこれと言う適当なものが中々ありませんでした。造ってみて2点支持は正解でした。 12. 縦軸の部分はもっと悩みました。仮製作で流用したSTAXの縦軸部は小さなボールベアリングを使用していました。これは自作不可能です。 13. これも上下の2点支持で解決しました。ただ強度的に大丈夫か?と心配しましたが、OKのようです。使い始めて気が付いたのですが、下部分は針支えでOKでも、上部分は針支持だと、どうしてもガタがとれません。閉めすぎると動きが鈍くなり、緩めるとガタが出るのです。さらに夏と冬での部屋の気温の変化で、緩くなったり、きつくなったりします。そこで一工夫して1mmの穴を開けて、下からは1mmのドリルの刃をちょんと切り、セットしました。これでガタも無くなりスムーズに動くようになりました。1mmの穴を開けるには0.9mm径のドリルビットを用いました。普通の固定式ドリルで穴が開きますが、2,3回失敗しました。1mmのドリルでは、1.1mmの穴が開きます。 |
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14. 使いやすいようにアームリフターはSTAXの部品からの流用です。 15. また後ろのウエイトも流用です。この2点は自作ではないので心残りですが、自作注文はかなりお金が掛かりますので諦めました。 16. リフターの支持器、インサイドキャンセラー支持器はヤスリと穴明け機、それにバンドソーでやっと2回目にうまく出来ました。材質は5mm厚のアルミ板です。 17. インサイドフォースキャンセラーは最初からこのアイデアがありましたので、この設計図のとおり作成しました。ただ微小コロの部分は自作不可能なので友人の鉄工所で酒1本で作ってもらいました。軸はやはりドリルピットの1mm径を切って使用しました。ウエイトはDIYで鉄製の棚を止める筒状の金具を買ってネジの部分を切り落として加工しました。糸は釣り糸です。 針圧などにより、インサイドフォースが変わるので、重りの長さを変えたモノ(つまり重量を変えた重り)を何本か用意しています。 インサイド・フォースはレコード外周部では大きく、内部に行くほど小さくなります。 この方式ですと、内周部にアームが移動したとき、中心部からキャンセラーへの角度の関係で、わずかですが、距離ベクトルが小さくなるので、同じ重りでも、内周部では小さくなります。図をよくみていただくと分かります。SMEの方式より優れていると思います。 |
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18. 問題の回転部分の凸・凹ネジは結局同じ友人の鉄工所でイモネジを何本か加工して焼入れをしてもらい、そのうちから良いのを選んで取り付けました。市販のイモネジでもOKのものがあります。その場合は工作後焼き入れをした方がよいです。ガスで真っ赤になるまで焼き、油に入れて冷やす処置を何度か繰り返します。 19. ウエイト位置がパイプとストレートで付けていたのを、下と左(このアームはストレートアームなのと下記21項にあげたシェルの為カートリッジが前から見て右側に位置しますので重心が右によっている)にオフセットさせました。重心がより回転部の中心部に乗り、これで安定感がぐっと増したように感じました。取り付けは木を削りパイプの穴に合わせ、オフセットにした形に削りだし、パイプを切断しりょうほうからさしこみました。 |
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20. アーム台座を改造し精密なものに代えました。設計し近所の精密機械加工所に依頼しました。工作代は約2万円でした。これでオーバーハング調整がやりやすくなりました。また、これらの結果でしょうか、音のしまりが良くなったように感じます。直接関係無いようなことでも、微妙に作用しているのですね。 |
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21. カートリッジシェルは市販品も種類が多く流用できなくは無いのですが、自作の精神と、接点・接続箇所を減らしたいので、左の図面のごとくアルミ材から造りました。来る日も来る日も削りました!シェルとウエイトは近所の塗装やさんで、焼付けつや消し黒で塗ってもらいました。2個で1000円でやってくれました。 2002年に設計してから改良を含め2004年、足掛け3年の歳月で、やっと最終的完成です。総費用は外注込みで約9万円でした。掛かった時間を入れると数十万円になるでしょう。でも、世界に一つしかない、理想的なアームの完成です。この楽しみ、喜びは・・・言葉になりませんね! |
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22.使用の結果 実にスムーズに動作してくれます。テラーク盤のチャイコの1812年の大砲など楽々とトレースします。SMEでは、最強音でビリ付きがありました。同じカートリッジでも、0.5グラム、針圧を下げてもなんら問題ありません。 現在の使用カートリッジはオフトフォン、コントラプンクトβ、GT(トランス付き)をシュルからはずして使用。などです。ただ、出力ピンにリード線をハンダ付けしているので、針交換のときに、リード線を外すのにちゃんとハンダを拭っても痕が残るでしょうから、交換してくれるかが心配です。 このアームの唯一、二の欠点はカートリッジ交換にハンダ付けが必要なことです。それと、カートリッジシェルとパイプ接合部が若干ひ弱なことです。しかし手でねじってもビクともしないので大丈夫かなと思います。この部分は板状でなく一般の箱形にすれば強度は増すでしょうがそれこそ自作出来ません。ものすごく厚いアルミを買ってきて、削り出す(掘る)しかありませんが、工具も持っていません。なにしろ工具といえば、バンドソーと固定式ドリルだけです。(卓上型でアームを降ろすとドリルが下がるようになっているもの。) カート交換問題はリード線のところで、カートリッジを繋ぐための小さな接合ピンを付ければ、解決しますが、接点が増えてしまいます。私の方式では、接点はプリアンプまで1カ所(ピン・ジャック)で、この1カ所も省略可能です。プリアンプにはピン・ジャックを付けていません。ケーブル直出しです。 23. 折角ですから同様に育ててきた自慢のオーディオ・ルームも見て下さい。 最後までご覧いただき有難うございました。いずれまたお目にかかりましょう。 |
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