Juke Box Music番外編 なかの綾「エピソード1」リリースツアー〜ながれうた〜 日本橋店 渡辺 正 本日は2015年12月18日掲載分Juke Box Musicの番外編として 今一番ジュークボックスが似合うシンガーのライブレポートにお付き合い下さい。 http://www.hifido.co.jp/merumaga/nihon/151218/index.html |
|
“そして、神戸” 西日本に大寒波が押し寄せる直前の1月21日の木曜日 なかの綾というシンガーの歌を聴きに行った。 会場は神戸を代表する漆黒のソウルバーMOON-LITE。 ずいぶんと昔から 昭和40年代の歌謡曲とソウルミュージックの関連性を提唱してきたお店で なかの綾には最も相応しいステージとなった。 三宮SOGO前で約束の13時ピッタリに徳島の怪人と落ち合う。 ナデ肩の男は諸般の事情により遅れて合流する算段になっている。 徳島の怪人と禿げヲヤジの二人連れで海岸通を南に下り 男泣きの洋服店を冷やかす。 相変わらずグダグダと長居して 店員相手にそこに陳列されている服がいかに素晴らしいか語りまくり そして何も買わず店を出る・・・。 ちょっと遅めの昼食はグリル一平のオムライス。 麗しき大航海時代のミナト神戸 陸(オカ)上がりの料理人達によるソースの系譜に想いを馳せ舌鼓を打つ。 ご馳走を複数少しずつ上品に味わうことよりも 絶品の旨いもんを一品ガツガツと口に運び ヒタヒタと押し寄せるその旨さに浸るほうが 我々には似合っている。 宿泊を決め込んでいる徳島の怪人は 彼の常宿である元町R&Bホテルのチェクインを済ませ 我々は神戸チャイナタウンの南端に位置するPUB KENNETHに向かう。 このお店は南側に向かって大きく切り取られた窓が開放的で気持ち良く 陽の高いうちから飲むと最高である。 久々に訪れたPUB KENNETHは 窓際の壁に重厚なウォールナット材が奢られた 素晴らしいDJブースが設置されていた。 素晴らしい造作に暫し見とれてしまう。 オーダーはアイリッシュコーヒー。 イギリスの60年代ユースカルチャーに則ったソウルやスカに身を委ねながら アイリッシュコーヒーに浮かべられたホイップクリームを鼻の頭にくっつけて カウンターにちょこんと並ぶ加齢臭漂うオヤヂ達は傍目にさぞ滑稽だったはずだ。 ライブ前の軽い腹ごしらえは PUB KENNETHから一つ北のブロックにあるおでん屋トクサンで。 この店の壁面には 先ほどのPUB KENNETHのマスター北秋氏が 1994年より毎月1回欠かさず続けてきた 50's & 60's音楽のトップイベントNUDE RESTAURANTの歴代の告知チラシが ずらりと貼り付けられている。 隣り合わせたお客さんも行かれるわけではないのだけれど なかの綾ライブの話をしていた。 狭い神戸の路地裏では周波数をちょっと合わせれば こうしてご機嫌な音楽が共鳴するのである。 そうこうしていると所用を済ませたナデ肩の男がトクサンにやってきた。 トクサンのマスターとナデ肩の男が互いの持病について ヒサヤ大黒堂ネタでひとしきり盛り上がり 絶品のおでんでビールをあおる。 |
|
“神戸、聴いてどうなるのか” ハゲとナデ肩&徳島の怪人はおでん屋トクサンを出て 栄町通を渡り港の手前の路地を右に折れ青く光る三日月のネオンを目指す。 20時オープンで20時30分スタートのところを辛抱出来ず30分前に入店。 カウンターだけのお店で20名限定である。 伴奏はカラオケということだが それでも相当聞き応えのある濃厚なライブとの前評判に期待は否応無く膨らむ。 我々三人は一番奥のステージ側真ん前に通される羽目となる。 ここで、なかの綾というシンガーを簡単に紹介すると R-18指定のダンスフロア対応型歌謡曲を歌うお色気歌手と言ったところか。 レパートリーの大半は往年の歌謡曲になるのだが その場合、選曲とアレンジで評価は全く変わってしまう。 60年代70年代80年代のど真ん中の歌謡曲に 洋楽カバーやニューミュージックの変化球をほんの少し混ぜ込むセンスが良い。 これが恥ずかしい懐メロ感だったり 昭和のキーワードをやたらめったら押し出されたりすると 徳島の怪人もナデ肩も興味を示さない。 なかの綾のかっこ良さは、ロックが台頭する以前の ブルース、ジャズ、ラテンのリズムに則ったビッグバンドアレンジ前提の歌謡曲を それらの黒いリズムが本来持つ拍子の裏に込められたニュアンスを再現したところにある。 当時の歌謡曲は洋楽のリズムに慣れていない聴衆に向けて 拍子の頭にドスンとアクセントをつけていたのでやや平坦な音楽となってしまうのである。 20名強の会場とは言え告知前に既にソールドアウトだし 翌日の大阪会場の80人ほどのキャパもソールドアウト。 滅多に見ることができないなかの綾への期待の大きさが伺える。 |
|
なかの綾と1977 ROCK-OLA 469 漆黒のソウルバーMOON-LITEの名物ジュークボックス。 ミスジュークボックスのコンテストがもしあれば、なかの綾は間違いなく優勝であろう。 セットされているEP盤は昭和40〜50年代の歌謡曲を同年代の洋楽少々。 なかの綾も過去4枚のEP盤をリリースしていて、このジュークボックスにもばっちりセットされている。 ライブ終了後はジュークボックスから流れるなかの綾で火に油を注がれ、浮かれまくることになった。 |
|
“飲んで、踊って、呑まれて呑んで、酔い潰れて” グラスの横に小銭を積み上げてオーダーの都度都度 お金をそこから取ってもらうのがMOON-LITEのスタイル。 港のバーの正しい在り方だ。 みんなペースが早い。 メートルは上がりっぱなし、残金は減る一方である。 久々に会う人、初めてお見かけする人 周囲のお客さんと談笑しながら始まりを待つ。 定刻の20時30分、開いたドアのその向こうに、なかの綾が居た。 カウンターの中を通り抜け、奥のステージに立つ。 それにしても近過ぎるのである・・・距離にして1メートル未満。 スタートは水原弘の隠れた名曲「黄昏のビギン」。 この曲は1991年にちあきなおみがカバーして一躍有名になった。 演奏はスムーズでピアノに被るストリングスも チャランガのように宙を舞う事はないし パーカッションも汗をかかせるような演奏ではない。 灼熱感を排した妄想のパンパシフィックサウンドで ショーの幕は開いた。 歌が入った瞬間ぶっ飛びそうになった。 この曲が入ったCDは2010年の発売。 生だからなのか、5〜6年の歳月がそうさせたのかはわからないが 今、目の前で歌われている歌の方が圧倒的に凄い。 スローなマンボ仕立てのテレサ・テン「つぐない」に繋がる。 緩やかに高揚するメロディーの中に潜んだ高ぶる感情表現はティンバレスが受け持つ。 適度な太さと艶のある声でサラッと歌っているが時折眉間にシワ寄せて軽く力んでみたりもする。 全てに於いて寸止め感が素晴らしい。 1メートル足らずの至近距離での 直視できないナイスバディーのみが寸止め無しでこちらのレッドゾーンを振り切らせる。 ディープなファンクネスに たまらず内股となり身をよじらすのは辺見マリの「経験」。 ファンクとは色気がグルーヴと化すことを言う。 という事ならば、これこそが日本一のファンクナンバーだ。 ズンドコビートが炸裂する「女とお酒のぶるーす」は青江三奈の1995年の作品。 僕は原曲を知らないが〜。 ここで、なかの綾のナイスなMCが入る。 -----洋楽のカッコイイやつは全部ジャズ、 ラテン調は全部ボサノバと言われてた頃、なぜかズンドコ節と言われていたのがブーガルー。 昭和の先輩方が、南米やらから入ってきたものを吸収して作り出した歌謡曲。 (拍子を)表でとるか、裏でとるかで変わってしまったものを、 本国のリズムに帰したらどうなるかというアレンジでやってます。----- このコメントでなかの綾がただのお色気シンガーではないことがわかって頂けると思う。 針の穴を通すような絶妙な選曲と 出血大サービス赤字覚悟のビッグバンド生演奏でのレコーディング。 その音源を引っ提げて遠征ライブ。 フルバンドでなければ表せないニュアンスがある。 しばらくはこれで良いと思う。 ド派手なドラムにホーンのリフ、スウィンギーに迫る桂銀淑「雀の涙」。 ビッグバンドによるグランドキャバレー感が光る名アレンジと、 はすっぱ度が蛇口全開する、なかの綾の熱唱は最高のマッチングだ。 ちなみにこの曲は弊社レコードコンサートを某百貨店でやった時、 この曲をプレイすると、同じフロアの宝石売り場の販売員さんが何という曲でしたっけと売り場を代表して聞いてきた事がある。 この辺りから酔いも回りどんな曲をどんな順番でやったのかはあまり覚えていない〜。 僕の敬愛する文筆家、藏真一郎氏が デビッド・ボウイ逝去の際に発言した「作意的なワビ・サビはヨロコビに成り得るけど、対極に在る本格的な不幸はどこ迄もツライものです」とあったが まさになかの綾の取り上げる昭和中期の歌謡曲とは、極度のエグい設定を設けて色恋沙汰を歌う事で情念をエンターテイメントとする大昔から続く全世界共通の文化である。 ラストは圧巻のシャ乱Q「ずるいひと」。 グリングリンのラテンロック仕立てで飲めや歌えや踊れやの大騒ぎ。 ハゲとナデ肩のタコ踊りを横目に徳島の怪人が軽快に阿波ブーガルーダンスを極めてくれる。 シンプルな仕込みだけで見事なエンターテイメントに昇華するのは その絶妙な歌心と安易にギター伴奏などに走らず ストイックに自分達の珠玉の音源をバックにした事だろう。 ああ神戸 神戸の 夜もむらさき〜なのであった。 |