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ステレオフォニックサウンド
ハイファイ堂メールマガジン第705号 京都商品部
祇園祭と大文字送り火の間の何もない時期の京都から、京都商品部の朴 高史です。
最近、前回のメルマガでお披露目しました、私のダブルアームプレーヤーで、モノラル盤を聴くことが増えまして、7インチ、LPとモノラル盤をしばらく聴いた後、ダブルアームなので、ステレオ用のアームに切り替えて、ステレオ盤を聴き始めました。すると、初め、音を見失うといいますか、ステレオ感が捉えられない感覚を覚えます。
これは多分、リスニングポイントを意識し始め、それからのズレを感じるからかと思われ、なるほどと思います。
と言うことで、今回はステレオフォニックサウンド(Stereophonic Sound)についてです。
ステレオの実験は、1881年のフランスの技術者 クレマン・アデールによる「テアトロフォン」が最初の実験とされ(電話回線と受話器によるもの)、1933年からのベル研究所による3チャンネルステレオにより発展し、1940年のディズニー映画「ファンタジア」の9チャンネル・マルチ・トラック録音によるサラウンド・サウンドへと結実してゆきます。
(通信や映画からまずは発展していったようです。)
映画『ファンタジア』より「弟子のトラブル」YouTube
レコードのステレオ化は、1952年のエモリー・クックによる「バイノーラル・レコード」が最初のものです。(バイノーラル録音とは無関係です。)
左右の信号を内側と外側に別々に刻み、二本のアームで再生すると言うものです。
Binaural Record Demonstration Livingston Tone Arm (1953) YouTube
操作、調整の複雑さから、一般化することは無かった様です。
1958年に、現在のステレオレコードの方式である、45/45方式のレコードの製造が始まります。
90度の一本溝の両側に別々の信号を刻み、一本の針で、二種類の音を同時に再生するこの方式は、1931年の、EMIの録音エンジニアであったアラン・ブルムラインの発明を元に、1950年代中頃ウエストレックス社が実用化します。
最初の量産ステレオLPレコードは、Audio Fidelity Recordsという小さなレーベルが始めます。ウエストレックス社のカッティングマシーンによるものです。
店頭でのデモンストレーション再生には、テスト用カートリッジ「ウエストレックス10A」が使われたと思われます。
この、「ウエストレックス10A」は、パンタグラフ型アーマチュア構造の多分最初のMCステレオカートリッジですが、業務用でしたので、市場には出ませんでした。
最近はオークションなどで出品されたこともある様ですが、大変高額で、なかなか聴ける機会はありません。
(同じ構造のカートリッジが、京都のメーカー「サテン」の「Satin M-14」等、ハイファイ堂にも入荷があるこれらで、近い音が聴けるかもしれません・・・私はどちらも聴いたことがないのですが。)
画像はステレオ産業史より
http://history-of-stereo.com/history03.html
Satin M-14
ステレオレコードの出現で、オーディオ業界の大変換が始まります。(オーディオの中心アメリカでのことです。)
まずカートリッジはGEのバリレラ型が、業務用、民生用共に広まっていたのですが、1958年Shure社から世界初のMM型ステレオカートリッジ「M3D」が売り出され、手頃な価格と、バリレラ型の様に針先だけが交換できる機能性、音質の良さから一気に広まり、GEのバリレラ型にとって変わります。
その後、Shure社は、ミス・トレースが少なく高性能な「V-15シリーズ」の発売で、業界の中心となります。(MCカートリッジもフェアチャイルド社からオルトフォン社が中心へと変わります。)
Shure M3D
Shure V15 Type2
アンプは、モノラル時代には、フィッシャー社、スコット社、シャーウッド社の三社が代表的なメーカーだった様ですが、マランツ社からModel7、Model8、マッキントッシュ社からC22、MC275、イギリスのクォード社からModel2、Model22と、当時は小さかったこれらの会社から高性能なステレオアンプが発売され、主役となってゆきます。
marantz Model7
marantz Model8B
McIntosh C 22
McIntosh MC 275
QUAD 2+22
スピーカーも、モノラル時代の大きなコーナータイプのものを、ステレオ設置するのはやはり無理があり、小型のものが求められ、当時発表されたアコースティックリサーチ社のAR-3などが人気となります。
AR AR-3a
ステレオシステムの基本的なものが徐々に揃い始めるのですが、コンシューマーに行き渡るにはやはりそれなりの時間がかかります。
1969年に発売されたThe Beatlesのアルバム「Abbey Road」は、ステレオ盤のみの発売となります。この時点が、ステレオが一般化した時期と私は考えます。
The Beatles Abbey Road 1969 Apple Records/EMI
このアルバムは、ビートルズの実質的なラストアルバムです。(この後に出たアルバム「Let It Be」は同年1月に行われた「ゲットバック・セッション」映像を映画化した「Let It Be」のサントラです。)
時代変化のポイントでしょうか。
ではこの辺で失礼します。
今回は、「オーディオの系譜」瀬川冬樹/酣灯社(1982)、「音響技術史ー音の記録の歴史」森芳久/東京藝術大学出版会(2011) などを参照しました。
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